京町家に思う 2 〜保存と再生〜

2010-03-01

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町家につきものといえば、保存と再生です。私が町家をつかった店舗のデザインをしたのは、今から20年ほど前のこと。知人の紹介で、実家の町家に一人暮らしをしていた若い施主が、そこを居酒屋に改装したいという依頼を受けたのです。

施主は「小さい頃から住んでいる場所なので、店舗にして町並みをこわして、廻りの方々に迷惑をかけたくない」と心配されていました。営業時間が夕方からなので、「外観は補修程度はするけれど、とにかく町家のフェイスはそのままにして、内部は全改装する。 営業時はのれんと行灯サインで、店舗を認知させよう」ということで、最初の店ができあがりました。当時は町家の内外をそのままに、店舗として利用している例はありましたが、内部を全改装したようなお店は少ないころでした。そのお店は、既成概念を破ったお店としては話題となりました。しかし、評価は賛否両論でした。「これはうまく町家を再生している」「いや、これは町家の破壊だ」などとささやかれていましたが、商売としては、話題性や、集客があるため、町家を店舗とする事例は増えていき、やがては「町家ブーム」へと進行していきました。

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確かに町家をそのまま復元して保存することは、必要なことだと思います。

しかし、町家の仕事を依頼され、最初に現場を調査したときに、良い状態で残されている町家はほとんどありません。その多くは、床や柱が傾き、柱の根元は腐っていて、補強にかなり手を加えないと使えません。店舗に改装して流行る店になれば、工事費は取り戻すことができます。しかし、住居として使うために、個人でそこまで費用をかけ、その上、昔の間取りのままで生活をするというのは、よほど町家の生活を愛する人でないと無理であると思います。そのあたりが、京都で町家の保存や再生に対して、総論では賛成ではあるけれど、各論になるとなかなか話がすすまない、というところでしょう。

私は町家を残すには、大きく分けてふたつの方法があると考えています。ひとつは町家の所有者個人に押しつけず、行政の補助や基金、寄付等の資金で所有者をサポートして、なおかつ古い建物を修復する職人さん、工事会社などの最低の補助をして、公に町家や歴史的建造物を保存、再生するシステムを作ることです。

二つ目は、町家や古い建造物を、商業施設として利用することです。しかし、それには建築法規、消防法、美観などを整備することが必要であるし、なによりセンスの良いルール作りが不可欠です。

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京都は今や、世界の中の観光都市と位置づけられていることは間違いありません。千年の都といわれながら、1000年たってこのありさまというのも寂しい話です。町家が京都を代表する建築物のひとつだとすると、それ以降、現在に誇ることができる町家の進化形がないのもおかしな話です。私自身も建物をデザインしていますが、このおかしさにこの歳になって気がついているのですから、えらそうなことはいえませんが。京都の良さは、古いものが残っているところだというように思われていますが、本当の良さは、京都に来た人が五感で感じる物事が、日本のほかの地域よりも日本的であるということだと思います。それは言い換えれば、京都の生活文化ではないでしょうか。

以前のブログでも書きましたが、京都で色々な生活環境で暮らすものが、意識を変えて、より良い生活文化を創造し、京都をもっと良く、五感で感じられる町へと変えて行きたいものです。

杉木源三