以前のコラム「衣食住」のなかで述べたように、東京から京都へ戻ってデザインの仕事を始めるまでの10年の間の3年くらい、父の経営していた工務店の手伝いをしていたことがあります。手伝いといっても、長男として生まれたもので、工務店を継ぐために始めたわけです。
物件の図面を書いたり、材木を運んだり、大工さんの手伝いで屋根に登って野地板に釘を打ったり、新築の柱、梁の「きざみ」のホゾ穴をほったりと、現場に近いところで仕事をする経験をしました。それまで、東京で働いていた時は知識のみで建築や内装の仕事の図面を書いていましたが、正直、自分の書いている線の意味もわからず引いてたところもありました。
しかし、現場に入って、実際に家を建てはじめると、土台、柱、、梁、母屋、垂木、胴縁等々、目の前に過程が見えてくるわけです。それが、自分が書いている線と一致してきたのを見て、初めてわからなかった線の意味が理解できました。基本を知ることの大切さは言うまでもありません。その後、デザインの仕事を始めてから、この現場での経験は大きな自信となりました。職人さんといっしょに働いたことも、「職人気質」なるものを理解する上で大きなプラスとなりました。
建築や内装の仕事は、図面を書くだけに終わらず、現場を経てでき上がります。ソフトとハードが一緒になって完成するのです。ソフトに身をおく人の中には、ハードを知りすぎる事により、それにとらわれ自由な発想ができなくなるというような考えの方もいるようですが、建築デザインの世界では『40、50ははなたれ小僧!』という言葉もあります。若いうちに一度現場に身をおき経験を積むことも、必ず将来のプラスになるのでお薦めしたいと思います。
杉木源三